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エレーヌさんの刺繍アトリエ ”自由のべール” (「CREATION POINT DE CROIX」2014年春号掲載記事)
2021年5月、当店は「エレーヌさんの花咲く可憐な世界」を開催中です。

 

先日のメルマガ[4/28配信] で触れさせていただきました、ブルゴーニュの刑務所で行われたエレーヌさんの刺繍アトリエを、改めてご紹介いたします。



エレーヌさんの提案で実現された、彼女達の一年間の“冒険”。その背景には、一体どのような物語があったのでしょうか。

CREATION POINT DE CROIX - 14MAR/APR#37
クロスステッチ CREATION POINT DE CROIX - 21MAY/JUN♯88
(同号p12〜14に掲載)


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共同制作
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妖精の指を持つ(フランス語で「手先が器用であること」を意味します)テキスタイル作家、エレーヌ・ル・ベールは、ブルゴーニュの刑務所受刑者の女性達と、刺繍作品の共同制作を行いました。

1年にわたって制作された刺繍の作品は、パリの「針の祭典」(Aiguille en Fete)で展示されました。


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自由のベール
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(↑クリックすると拡大します)



「ここまでたどり着くなんて思わなかったわ」
受刑者の女性の一人が感動の声を上げました。

刺繍アトリエに参加した受刑者のうち4名に、「針の祭典」(Aiguille en Fete)へ参加するため、パリへの移動が許可されました。

一般客と自由に交流ができるように、刺繍のベールは大きなテーブルの上に広げられ、展示されました。

ある人は直接参加者へ、またある人は訪問客がコメントを残せるノートへ、作品や活動への感動、称賛の声が上がります。


「素晴らしい!なんて素敵な活動なのでしょう。
皆さんの心が、作品に込められていますね。参加者の皆さん一人ひとりに、拍手をおくります」



「エレーヌは、本当にたくさんの時間をかけてくれたんですよ」と、アトリエ参加者の一人が念を押しました。

刺繍アトリエ初回の講習にはじまり、祭典での展示に至るまで、エレーヌと受刑者の女性たちは実に忘れがたい冒険を共に経験しました。

ブルゴーニュのjoux la ville刑務所では、最低2年間の服役期間が設けられています。
18名の参加者のうち、釈放が決まり作品制作から離れた人もいれば、途中から新たに加わった人もいました。

エレーヌの刺繍アトリエは2週間に一度、1年間にわたり、午後の時間に実施されました。


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一針一針、ひと呼吸
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「私が花を描いた布をカットして、刺繍の技法を教えました。その後は、彼女達に自由に刺繍してもらいました。
作品の指針となるように、「繊細、フェミニン、光、そして、豊か」を合言葉として、伝えました。

可能な限り、たくさんの刺繍をしてほしい、
一針一針がひと呼吸をするように、刺繍した人の存在が感じられ、創造が作品に宿るようにと願いました。」とエレーヌは述べます。

繊細な針仕事で生み出された作品の、華やかな花々と軽やかさのコントラストは、見る者に幻想的な気持ちを抱かせます。


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抗えない、軽やかさ
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エレーヌは、
「私は刺繍の花々をキルト生地と組み合わせてみたのだけれど、参加者から「軽やかで、透明感のある生地の方が良い」と意見が出たので、この薄く繊細な生地を合わせ、刺繍にボリュームをもたせました。」と続けます。

18名の参加者の中には、手芸に親しみがある者、
幼少期からクロスステッチを行っていたという者、あるいは全くの初心者と、手芸経験は様々です。

展示会へ参加した4名のうち、刺繍に触れるのは初めてだという2名に、根気を必要とする刺繍についてどのように感じたのか尋ねると、

一人は「いずれにせよ刑務所は忍耐を教える場所ですね」と述べ、

もう一人は「そうね、でもあまり落ち着きが無い私は、刺繍は安らぎをくれるものだと知りました」と答えました。


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感動を分かち合う
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手芸の祭典での作品展示。そこには、刺繍した人々の想像を遥かに超えた感動がありました。

作品を目にした人々から、

「このベールを纏うためだけに、また結婚式がしたいわ。」

「私はこのベールをダンスパーティーの時に身に着けたい!」
と称賛の声が上がります。

受刑者を引率したパトリックは、「刺繍アトリエから手芸の祭典への参加の実現に至るまで、刑務所から裁判官まで、実に多くの人間が尽力しました。今、アーティスト、受刑者、裁判官を含め、全員がこの一連の活動の集大成として、この場に集っています」と喜びました。

エレーヌは、参加者全員が抱いていた一つの想いを告げました。

「私たち皆で完成させたものには、大きな力があるんだわ!」


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写真
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一連の芸術活動を支援するべく、受刑者の顔や刑務所の風景を映さないことを条件に、エレーヌの刺繍アトリエに、カメラマンの同行が許可されました。

彼女たちの作品や手仕事の様子を撮影した写真は、刺繍のベールと呼応する一つの作品として、手芸の祭典で同時に展示が行われました。

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特集記事では、共同制作の華やかで軽やかなベール、
作品に寄せられた一般客の心のこもった手書きのメッセージなど、展示会の様子をおさめた写真が掲載されております。

本誌をお手持ちの方は、この機会にぜひご覧くださいませ。

CREATION POINT DE CROIX - 14MAR/APR#37
クロスステッチ CREATION POINT DE CROIX - 21MAY/JUN♯88

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河野 由貴  (2021/05/25)